基本的にベタ惚れ過ぎて、冷静な感想など述べられそうに無い(そもそも勉強不足で語るだけの言葉を持ち合わせていない)けれど、あえて恥を忍んで”この人は凄い”と言わずにはいられなかった。
まずこの表紙がヤバいだろう。小煩いほどの太い帯だと思ったらカバーのカバー状態で、本来の表紙がほんの少し見えるサイズにすることで、まるで曇りガラスからチラ見しているかのようだった。オシャレでちょっぴりエッチじゃない?
本書に収録された短編は、160ページ弱しかなく、以前別の形で読んだものもあったものの、どれも飛浩隆さんらしい作品で楽しめてしまった。直ぐに作者による解題が読めるのも、これまでの飛浩隆作品にない要素でとても良かった。自分の書いたものをしっかりと分析しつつも、冗談交じりにおどけてみせるなど、サービス精神たっぷりな方だなぁと感じた。
今回、初期の短編以外に飛浩隆さんが読んだり観たりした様々なSF作品について書いたものも載っていたけれど、自作のことだけでなく他人の作品のことも本当によく見えていると思った。飛さんが書くと、解説文だろうが感想だろうが読み応え十分で、読書欲を非常に刺激された。この人は本当にSFが好きで、小説が好きで、ジャンルの垣根すら超えてSFを愛して欲しいから書き続けている人なのだと勝手に合点がいってしまった。
『SFはだれが何といおうが「文・芸」以外の何ものでもありません』
という言葉には、激しく同意している自分がいた。それこそ飛浩隆さんの作品に感じていたことの全てだった。SFと聞いて読むのをやめるなど、全くもってナンセンスでしかない。用語が分からないとか、突飛な展開についていけないとか、そんな瑣末なことはまるっと捨ててしまって、自分の感じるままに読んでみれば、面白さが分かってくるのではないかと思う。ぶっちゃけ一見小難しそうに見える部分など、お話を盛り上げるための装飾に過ぎないわけで、前菜の後に広がるメインディッシュの豊潤な輪郭だけ見えていれば、その日のディナーは幸せな思い出としてのこるのではないだろうか?
勿論しっかり読み解けば、更に深いところまで味わえるに違いないが、素人に完全なる読み解きをさせてしまうような作家など、元より僕は愛したりしないだろう。スポーツでもそうだが、自分には到底出来ないものを持っている相手だからこそ、お金を払ってでもそれを見せてくれと望むのである。
「もの」「かたち」「ちから」
この三つのモチーフに魅せられた男に魅せられたことに、一切の後悔はない。
どんなに待たされようとも(最近は小まめに出してくれるので嬉しい)付いて行く所存だ。