無差別八方美人?

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楽しいばかりが世界じゃないから、愛おしい命がある「この世界の片隅に」片渕須直(監督)/BD/感想

つい先日、広島カープが優勝した。気づけば2年連続である。
めっきり野球など観なくなったから普通に「2連覇か、すごいな」と思っただけだった。
それはそうと、広島と聞いたら未だに苦難の土地のように思ってしまう。理由は言うまでもなく原爆が落ちた土地だからである(長崎もそうなのだけど、2番目で若干被害が少なかったために印象が薄い)しかし、福島の痛ましい事故以来、その印象も和らいだかもしれない。少なくとも原爆による汚染が土地にほとんど残らなかったのは救いだったろう。でなければ、広島カープそのものが存在しなかったはずだから。
人は、様々な物を引き継いで生きていく。それこそ物かもしれないし、意志かもしれない。案外忘れがちな生命そのものだってそうだ。親がいて、親の親がいて、更に親の親の何世代遡れば良いのか分からないほど昔から紡がれた縁によって僕らはこうして生きている。そう考えると自分自身が神秘的な存在に思えて笑うしかない。
僕は自分と直接的に繋がりのある生き物を残す気は無いのだけれど、精神的繋がりや思想は残したい気持ちがある。特に良い創作物に出会った時の感覚は他の誰かにも味わって貰えたら幸いだなと思ってしまう。「この世界の片隅に」も、間違いなくそんな語り継ぎたい作品の一つで間違いなかった。
あの大戦時、戦っていたのは何も前線の兵士だけではない。それを支える人達や、どんな状況でも生き残ろうと知恵を絞って家庭を支えた女達だって戦っていたのだ。慣れない土地に嫁ぎ、十円ハゲが出来るほどのストレスを感じつつも、目の前の生を全うしようと歯を食いしばる本作の主人公”すず”もその1人だった。
周囲が勝手に縁談を進め、恋愛結婚などほぼ皆無だった当時、女性は夢を見る権利さえ無かった。すずは運良く、良い旦那と家族に恵まれ(少々口の悪い義理の姉はいるが)たものの、戦時下ならではの心に深手を負うような出来事に見舞われてしまう。そんな彼女を目撃した僕ら観客が痛感したのは当たり前の日々の大切さであった。衣食住に困らず、子供が子供らしく笑い、空襲警報に悩まされることのない僕らの当たり前が、実はどれだけ貴重な物であったことだろう.....
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これほど胸を締め付けられる戦争映画は10年以上ぶりな気がする。オーディオコメンタリーでの視聴であっても、劇場で観た時と同じシーンで泣いてしまった。それもこれも、原作者でさえ舌を巻く片渕須直監督と大勢のスタッフ達の拘り抜いた仕事のお陰だろう(一度は売れないとレッテルを貼られた作品なのに、クラウドファンディングで多くの人が信じて支えたのも頷ける手腕だった)BDの豊富な映像映像でもそれが見て取れた。「君の名は。」の特典も見応えたっぷりだったが、こちらはこちらで流儀を貫く監督を愛でるドキュメンタリーとして断然面白い。
また日本は苦境にある。あの国のおかげで鳴り響くJアラートに"もしかしたら...."という気持ちが拭い去れない時代であればこそ、小さな幸せの有り難みを実感させてくれるこの映画の価値は計り知れないなと思った。