僕はしがない童貞だ。
素人だけじゃなく、プロとだって経験は無い。せいぜい右手が恋人である。
若い頃、女性をお金で買う連中が嫌いだった。結婚するわけでも無い相手と粘膜を交える行為に吐き気がした。自分を安売りする女性達のことも理解出来なかった。でも、いつの日か気付いていた。エロ本やビデオ、ネットで女体を漁っているのだって、同じように女性を軽々しく喰い物にしているだけなのだと。自らは戦場へ赴かず、兵士達へ御国の為に死ねと命ずる卑怯者と変わらなかった。互いに割り切って身体と身体をぶつけ合っている連中の方が、何倍も堂々と生きていたのだ。
そして、この漫画は、そんな人々の蔑みと尊敬を一身に集める女性達と、拗らせた男達の物語だった。
舞台は20世紀初頭のパリ、「メゾン・クローズ(閉じた家)」と言う娼館。主人公である”コレット”は、たまに顔を見せては金をせびるレオンに夢中なこと以外、生き甲斐も無く今の生活を受け入れている女性。
勿論は彼女と彼女の仲間達と変態紳士達の話が中心になるわけだが、もう兎に角変態紳士達の屈折した性衝動が生々しくて笑えない。全身に羽毛をつけて娼婦達に追われる小鳥を演じる無垢な中年や、自分の父親を演じる男の頭を磨きながら娼婦に口でされて果てる男。果ては尻を責めてくれた娼館で自らの葬式を執り行う者までいる。拗らせた大人は本当に何でもやるものだ。僕に言えた義理でも無いけれど....
そんな変態紳士を相手にしているだけあって、絵画のような肉感の娼婦達にも重みがあった。悟りを開いたような娼婦達の短い一言一言が胸に刺さるし、愛する男から貰ったガーターをゴミ溜めから見つけて泣く娼婦の姿は、まるでガンダムのラストシューティング姿みたいに痺れた。こんなにエロくて切なく美しい漫画、子供には勿体なくて見せられやしない。まったく呆れるくらい人間と性は切っても切れない代物だ....