近年、何度こう思ったかしれないが、今一番面白いのはSFでは無いだろうか?
僕の個人的な旬も然る事乍ら、毎年のように質の高いSF(化け物が出て来る物ではなく、現実に起こりうるかもしれない事態を描いた作品)が作られ、観客もそれに歓声で応えていることから、決してマクロな人気では無いことが伺えます。
勝手な解釈としては、年々高まる国・人種・宗教という摩擦に嫌気が差して、アメリカお得の全員の気持ちを一つに出来る目標が欲しくて”宇宙”に希望を見出したいというのがあって、近未来に実現しそうなSFが増えているのかもしれないし、もしくは宇宙がいかに過酷な場所であるかを知らしめ、この狭い地球で仲良くやって行くしか無いんだよ、と訴えかけているように思えなくも無い。
そして、「オデッセイ」は、その両方の要素を大事にした作品だったように感じました。
冒頭、火星の有人探査を行っていた”マーク・ワトニー”等アレス3のクルーを予想外の大砂嵐が襲い、命辛々火星からの脱出を果たすが、風で飛んだアンテナが直撃してしまったマークは死んだものと判断され、独り不毛の地”火星に取り残されることになる。しかしマークは全然挫けない。Mr.ポジティブ。植物学者としての才能を遺憾なく発揮して、次のミッションで誰かが火星にやって来るまで生き延びようと行動を開始します。
専門的知識が無くともそれと分かる緻密で、正確性のある長期的プランをマークが練って実行して行く過程が、とても丁寧に描かれていて、火星に独りで居る怖さだけでなく、火星で生きる面白さも存分に感じさせられました。勿論すんなり彼の作戦が成功するわけもなく、トラブル続きではありましたが、なんとか連絡を取れるようになったNASAの面々に支えられ、最後にはリドリー・スコット映画とは思えないぐらいの爽やかさで幕を閉じたのも新鮮でしたね。
特殊効果もかなり良かったし、有る物でなんとかしようとするマークをマット・デイモンが絶妙な匙加減で演じているのも素晴らしかった。開き直ったマーク。憔悴したマーク。脱出が近付き感情が込み上げ顔をくしゃくしゃにするマーク。涙こそ最後まで溢れなかったけれど、彼の喜怒哀楽にかなり引き摺られた為、ラストシーンの穏やかな彼の表情には物凄く安堵しました。
ベタと言えばベタな映画ではあるけれど、火星におけるサバイバルのディティールが細やかであることで、ワンランク上の映画に感じる良作です。少しアメリカらしいご都合視点もあるけれど、過剰にアレルギー反応が出るほどではありませんでした。
ただ一つクレームを付けるとしたら、わざわざタイトルをそれらしい意味を持った「オデッセイ(長期の放浪,長い冒険)」に変えて日本で上映したことくらいでしょうか?
語感とか詩的な意味においては良いタイトルかもしれませんが、情緒より泥臭いサバイバルが脳裏に残る作品なので、ずばり火星人と言う名を付けた原題『The Martian』の方が皮肉で良かったんじゃないかと思いました。オデッセイだと思って観てるのに、タイトルコールで全然違うタイトルが表示されるというのは、どうも好きになれないですね。