無差別八方美人?

全然無差別じゃないおじさん、はてなブログに引越し中です。

テロに美しいもへったくれも無い。でも....「残響のテロル」渡辺信一郎(原案・監督)/菅野よう子(音楽)/中澤一登(キャラデザ)2014年/MAPPA/感想

 人間と言う生き物が歴史を記すようになってからだいぶ経つ。日本で確認されている最古の歴史書でも西暦712年という古さだ。ざっと1300年前の日本など、文献や考古学の発見が無ければ想像すら出来はしない。
 その長い歴史の中で、何度となく諍いを人間は繰り返して来た。生きる為に最低限必要な食べ物の奪い合いから、女性を廻る浅ましい殺し合いまで、元を辿るとなんてことは無い些細な理由であっても人は人を傷つけ、殺す。
 だが、それもこれも人間の身体に刻まれた本質であり、誰かを殺そうとまで熱くなる感情がにも友情にもなって人と人とを絆で結んで来たのも事実である。美徳と悪徳は表裏一体なのです。
 それに、まだ棒切れや刃物、単発で打ち止めな銃で殺し合っていた頃はマシだったと思う。自分の手で相手を殺している実感を得ていただろうから、罪の意識もしっかり刻まれていたに違い無い。今じゃ、ボタン一つで何百何千という人間の命を奪える時代だから、事の重大さを正確に理解しているとは到底思えない。
 スイッチ一つで命を奪うと言う点で同じである自爆テロにしても、死ぬ寸前まで『大義』と言う荒唐無稽な物に陶酔したまま死んでゆくわけだから、自分のしでかす事態を正しく解釈しているとは言えないだろう。自分勝手な正義で悪を決めつけ、不特定の人々を巻き込んだ結果どうなるかも知らずに逝ける幸せな愚か者のすることだ。
 しかし、大きな存在と喧嘩をするには、テロほど効果的な物は無い。人員もお金も安く済むわりに派手でメッセージ性が強いからだ。声の小さい弱い者に残された最後の刃、それがテロなのかもしれない....
 日本は正直大きなテロとは無縁の国だ。民族や政治の闘争が過激だった頃はそれなりに小競り合いの応酬がなされていたが、海外からの大きなテロ攻撃はほとんど無い。国内で大きかったものでも、せいぜい頭の中に蟲が湧いていたオウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件くらいのものだ(初めて宗教とテロの関わり合いの恐ろしさを知った光景だった)
 ハッキリ言って海外のテロ組織からはアメリカに張り付いたコバンザメ程度にしか日本は認知されて居ないのでしょう。誰もがまさかと思った世界貿易センターの崩落に比べればどれもまだマシに思えてしまいます.....
 だから、不景気でもまだまだ平和な日本を舞台に、テロに対するリアリティを持たない僕らへ真っ向から勝負するように始まった「残響のテロル」にはとても興味を惹かれました。
 絶対的な信頼感の菅野よう子さんの曲と、乾いた色味の作画で非情さと静寂を醸し出し、テロ犯である青年達の凍り付いた青春と中年刑事共の哀しいを描いた本作。登場人物達の絶望とわずかな希望のバランス感覚が良くて、雁字搦めな今の世の中に漠然と抱いている反感を心地良いカタルシスへと導いてくれて凄く痺れた。
 核だのなんだのと騒いでいても、終わってみればシナリオ自体は渡辺監督らしいベタさに留まっているように思いつつも、テロをやり抜いた青年達が最後に見せてくれた光景の素晴らしさ、そして彼等の別れまでの淡い想い出作りが欧州の儚い映画を観てるみたいに哀しくて胸が痛んだ。
 スタッフロールと共に舞い上がる羽の行方を僕らに追わせ、スタッフロール後「完」の文字が出るまでの短い合間、曲を廃して鳥の声や川の音だけを残す演出も憎い。都会を都会たる物にしている全ての電子機器が破壊され、生き物達の純粋な息吹だけが残る終焉は本当に素晴らしかったです。
 自分達を産み出した存在から逃げ場を奪い、事実を白日の元に晒す目的で引き起こしたテロと言うことで、彼等は誰の命も奪わずテロを実行し続け、自分達になりすました連中が仕掛けたテロを防ぐことまでやってのけたのがまた良かったですよね。青年達は人体実験の被害者として根の深い怨みがあるのだから、もっと他人を巻き込んだテロを実行した方がリアルなのかもしれないけれど、その日本人らしい甘さを僕らは愛おしく思ってしまう。
 彼等の出来過ぎた計画は、高みの見物を決め込む指導者の言うことを真に受けて、他人を殺す為に自分の命を差し出すテロより遥かに爽快で清々しく高潔だった。現実のテロもフィクションのようにスマートに行われれば、伝えたいメッセージへの理解も少しは深まるのかもしれない....
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 誰も居なくなった動きを停めた街で笑い合う3人の青年達。
 彼等が満身創痍で振るった刃の美しさは、最後の最後まで人への希望を捨てなかったからこその輝きでした.......
 
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