なかなか報われない男の旅が終わった...「エージェント6」/トム・ロブ・スミス/田口俊樹(訳)/新潮社/2011年/小説/感想
巨大な社会主義国であった”ソ連”と共に生きた”レオ・デミドフ”の三部作に渡った苦悩と悔恨の物語が終わった。
1作目の「チャイルド44」では、国家を愛する公僕としてどんな事もやって来たKGB捜査官のレオが、初めて国家の規範から外れ自らの意思に従い連続少年殺人事件の犯人に迫ってゆく内容で、テーマ自体は重苦しいですが次々と問題が発生してゆくなかをレオと奥様のライーサが切り抜けてゆく様がスリリングで最後まで楽しめました。
2作目「グラーグ57」になると、派手なエンターテイメントとして描きつつ、ソ連の社会機構の問題点を更に掘り下げており、ミステリーではなくレオとその家族が否応無しに歴史の渦に飲み込まれてゆく人間ドラマとして深い作品へと成長し、完結編である今作「エージェント6」はその集大成である事に恥じない素晴らしいバランスで危うい当時のソ連情勢とレオの深みのある愛が語られました。
このようにこのシリーズは全編通してソ連の黒歴史を描いており、その歴史に身を置いたレオは、さながら十字架を背負い”ヴィア・ドロローサ(悲しみの道)”を歩いたイエスのようでもあり、自分や人々の業を背負い足掻く姿は毎度痛々しくて本当に辛かった。
国の行き過ぎたやり方に誇りを持っていた自分の愚かさを学び。本当の親の仇である自分を許そうとしない娘達へ贖罪しようと身体を張り。ようやくレオが妻の”ライーサ”や娘達と掛け替えの無い絆を手にした時の感動はひとしおで、ここに辿り着くまでに失った命と時間の貴重さを思うと、最後の一文字を読む頃には自然と涙が出てしまった。最後に彼の傍らにあの人が居ないのが可哀想で仕方無い......人が人として人を愛する事の難しさこそ、この作品の真髄でしたね。
なんか面白そうだけど洋書って読み難そうだしな〜と、もしもまだ読んだ事が無いのら、僕なんかの感想より3作全ての翻訳を担当した”田口俊樹”さんが『エージェント6』に書いた素晴らしいあとがきを読んでから『チャイルド44』を手に取ってもらいたい。本書は田口俊樹さんの絶妙な訳があってこその読み心地でもありました。本当にありがとうございました田口さん。
トム・ロブ・スミスさんありがとうございました。また新たな物語で御会いしたく存じますペコリ