人との別れ方にも数あれど、声優との別れ方のその殆どは残念ながら死別が多い。
役に成り切る故の反動なのか、収録の不規則さのせいなのか、声優は不摂生な生活をしている人が多く、飲酒が好きな人は特に不報が流れ易い。以前よりは喉のことを考え喫煙も飲酒もしない人が増えたけれど、それほど昔から変わらないように感じられる。
当然我々のような受け手としてしか関わらない人間の意思など、彼らには全く関係ない話ではあるわけだが、素晴らしい演技をする方が不養生の末喉を駄目にした挙句短命でこの世を去ることを残念に思うことは、それこそ我々の勝手として許して欲しい。
だからと云うわけでも無いけれど、今回流れたキートン山田さんの「ちびまる子ちゃん」卒業と声優引退のニュースは、寂しさだけでなく安堵のような感情が溢れてならなかった。生涯現役で働き続けるのも良いが、思うような仕事にならなくなったら辞めると云うのも勇気のある選択である。ウチの会社にも70代の再雇用先輩社員が居るが、若かった頃に比べ体力低下が著しく、一緒に働いていると切なさや苛立ちが混じり合ってなんとも言えない気分になってしまう。年金生活で悠々自適なんてのは今のような時代では難しいことかもしれないけれど、やはり引き際と云うのは大事なのだと思った。
さて、キートンさんの話に戻すが、一声聴いただけで誰だか分かる声優さんの1人であったことは間違いない。逆に同じ声色しか出せない人だとも言えるわけだが、同じ武器でも研ぎ澄まし方ひとつでここまで大勢を惹きつけるものになるのだから十分素晴らしいことだ。広く知られている仕事はちびまる子ちゃんかもしれないが、70年代の人ならゲッターロボの神隼人かもしれない。
個人的には名脇役と云う印象を持っていて、特に「銀河英雄伝説」のアレックス・キャゼルヌ役のイメージが強い。銀英伝は様々なメディア展開を果たしているが、声の付かない媒体(漫画等)なら、キャゼルヌ登場シーンで絶対キートン山田さんの声が脳内再生されるくらい刷り込まれている。先だっても銀河英雄伝説列伝と言う銀英伝のトリビュート短編集のキャゼルヌメインの話を読んでいたらキートンさんの声が聴こえて仕方なかった。新たな声を聴けないのは寂しいけれど、これまで貰った全部に対しありがとうとお疲れ様ですを伝えたい気分でいっぱいである。
2年前のインタビュー記事で影響を受けた先輩に富山敬さんや永井一郎さんの名を挙げていたキートン山田さん。
そんなあなたの名も、ちゃんと影響を受けた先輩として誰かに挙げられているでしょうね。