無差別八方美人?

全然無差別じゃないおじさん

誰かの至宝に成りうるガンダム「機動戦士ガンダム 水星の魔女」サンライズ/小林寛/感想

「あなたにとっての、至宝のガンダム作品は?」
 
と、問われたなら、迷いなく「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙」だと答え、次点には「逆シャア」が来るおじさんの自分だが、富野由悠季さん以外が監督を努めてもガンダムは成立するのだと世に知らしめた0080や、戦って!戦って!戦い抜いたGガンダムは勿論大好きであり、女性達にガンダムと云うコンテンツの可能性を浸透させたガンダムWも嫌いじゃない。
 
富野ガンダムと云う大きな壁が常に付き纏う中、様々なガンダムが生まれ、時に失敗し、時に思いがけない成功を手にし、その都度誰かにとっての至宝が生まれて来た。何故生みの親の手を離れ、最早見た目しか”ガンダム”を直接継いでいない作品達が、これほど成功したのだろうか?
 
 
 
一つ確かなことは、商売のことだけを考えたわけではない挑戦を、派生ガンダム達はし続けたと云うこと。富野由悠季さんが拘った演出や台詞回しを心底愛している人にとっては、富野さん以外のガンダムなど製作会社の事情程度にしか感じないかもしれないが、それはそれとして、作り手達が頑張った側面も見てあげて欲しいと思う。
 
かく云う自分も、近年のガンダムには”もうガンダムの名を付けないでやれば良いのに”と考えてきた。しかし、それもこれも、それらがガンダムと無関係に面白い作品だと思えたからに他ならない。まだ記憶に新しい鉄血のオルフェンズにしても、別にガンダムである必要があっただろうか?あのSF好きに欠かせない火星を絡めた任侠物語に、ガンダムが本当に必要だったろうか?あんな物、ただの客寄せパンダに過ぎないのではないか?銃より殴る方に特化したバルバトスは面白い存在だったが、正直モビルワーカーでちまちましてる方が泥臭くて最高だった。
 
同様に、水星の魔女に関しても、ガンダムである必要性は無いと、あの序章を見終わるまで思っていた。しかし、その後の展開を追う限りでは、これはガンダムだと言わざる得ない気持ちでいっぱいになっていた。これまでの戦争中心ではなく、まるでアナハイムを中心とした物語を見ているような、企業から見た国際事情を最後までやりつつも、本家と地続きでもおかしくないシリアスなSFとキャッチーな学園展開を共存させたバランス感覚が実に上手い。”甘く見ると火傷する”そんな言葉が、水星の魔女には相応しい。おじさんも大変満足するガンダムだった。
 
終盤の見せ場ひとつひとつに、過去のガンダムの名シーンがチラついている点も、まるで不快に感じず、SEEDとは違った意味でガンダム愛を示す作品となった気がする。こんなガンダム見せられたら、福井くん自分のガンダムと比較して、赤面しちゃうだろw
 
 
 
とかなんとか書いてはみたものの、今おじさんが最も待ち望んでいるのは、富野さん原作の「閃光のハサウェイ」劇場版2作目だ。3部作の中で、最も原作と異なる物語になる予定だと云う第2部が、気にならない初代好きなどいるだろうか?これまでの仕事を知っていればこそ、村瀬修功監督を過剰に信頼しているのもあるが、あれだけの仕事を1作目で見せられれば、否が応でも期待は膨らむと云うものである。
 
御年81歳の富野由悠季監督。残念ながら、もう彼の新しいガンダムは見れない可能性が高い。体力的なこともそうだし、会社が彼に金を出すかどうかも、Gレコの扱いでハッキリ見えた。気力はまだまだ健在の富野氏であるし、まだまだ彼の仕事を見たい人は大勢いる。しかし、もしも次があったとして、それでもガンダムを作らせるのか?他にも彼は引き出しを持っているにも関わらず?
 
事実として先が無いのだから、是非富野さんには、宮崎駿氏のように、私欲へ走った劇場作品を発表して欲しいなと思っている。
 
そして、散々儲けさせてもらったサンライズとバンダイは、採算度外視で、彼の創作に協力してあげて貰いたい。
 
それくらいやっても、罰は当たらないよね?...........