その昔、日本の定年制度は55歳から始まったと云う。
そこから平均寿命の上昇や雇用確保の問題等を経て、今ではまさかの70歳まで引き上げている会社もある。
なんなら働くのは幾つになろうとも可能とな時代である。
しかし、ルール上働けるとされたところで、果たしてどれだけの人がまともに仕事を熟せると云うのだろう?
結局は無い袖は振れない国の解消のなさが露呈しただけに過ぎないのではないのか?
いつまでも仕事を辞められない周囲の先輩方や、徐々に衰え始めた自分自身の先行きを思うと不安しかない話である。
そんな中でも、宮崎駿にだけは定年なんて必要ないと思っていたけれど、正直なんとも言えない気持ちでいっぱいだ。
生涯現役であって欲しい気持ちと、もう自分を酷使する生き方はやめて欲しい気持ちが、ぐちゃぐちゃになってしまった。
「君たちはどう生きるか」の円盤特典ドキュメンタリーを見た今となっては.....
TV放送時のプロフェッショナル仕事の流儀で語り切れなかった事がぎっしり詰まったドキュメンタリー作品で、本編とセットの物と、このドキュメンタリー単独での物が発売されている。
見るまでは、ドキュメンタリー単独で売るほどの物だろうか?と思う節もあったが、今となっては宮崎駿の映画を骨までしゃぶり尽くす気があるのならば、必ず見るべき映像作品だと胸を張って言える。ストーリーよりもキャラが先行する宮崎作品だけに、そのモチーフが誰なのか?何故こう云う配置なのか?を知るのにも役立つはず。そして、端から見てどう考えても苦行でしかない道を歩んで来た結果に触れる意味でも、貴重な密着動画になっている。
人間”宮崎駿”と仲間達の生々しい想いが交差する秀逸なドキュメンタリー。ジブリ作品を熟知していないと出来ない編集内容だった。とてもじゃないが”これ”を見た上で次も映画を作れだなんて言えやしない。
それほどに、ふとした瞬間の宮崎駿や鈴木敏夫の生の顔が、これでもかと突き刺さった。今の自分にはやれない事を理解した上で、それでも足掻く宮崎駿や、それを取り巻く人々の姿はなんとも言い難いものがあった。
本当なら働く必要など無いような人なのに、映画の制作途中に次々と同志と呼べる人々を亡くしながらも映画を作り続ける選択をする男の姿は酷く草臥れた物で、見れば見るほど切なさで泣けて来た。それでも全身全霊をかける男を見守る義務が自分にはある気がしてならなかった....
自分の中のアニメ成分を担ったアニメ監督達は、軒並み60代から80代。
もういつ何が起きても驚かない日々が続いている。
宮崎駿氏には是非長生きして貰って、自分のやりたいようにやって欲しいが、感謝以外の想いを同氏に押し付けようとは思わない。
これ以上ないくらいに「君たちはどう生きるか」は幕引きに相応しい作品だと思うから........
俺たちはどう生きようか?
ここまで頑張って貰ったんだ、今度は俺たちが頑張る番なんだろう。
宮さんが「風の谷のナウシカ」を撮った時の年齢の俺が、簡単に人生諦めてる場合じゃないなと思った。