無差別八方美人?

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救いがあって何が悪い?救い難い世界の中に「86-エイティシックス-」安里アサト(原作)/石井俊匡(監督)/A-1 Pictures/感想

人は誰しも、何かを大切にしたい機能が備わっている。
 
それは食欲かもしれないし、承認欲求かもしれない。
 
千差万別、似て非なる物である
 
今、この世界は大きく揺れ、一歩間違えたら後戻りの出来ない選択の連鎖に飲まれてしまう恐れがある。始まりは一人の孤独な男の独りよがりだが、果たしてそれだけで片付けて良い話なのか?無事今回のことが終わっても、その先の不安を拭い去ることは出来ないだろう。
 
突然誰かが自分の大切を奪い始めるのだ。その”誰か”の大切の為に。これほど恐ろしいことはない。
 
 
”86”
 
そう呼ばれる者達が、人間扱いもされず戦場で使い捨てにされている世界。その戦いの相手は、飼い主を失い暴走してしまったAI無人兵器レギオン。命令を止める者達が居なくなり、延々と人間を滅する作戦行動をとり続けるだけの存在になったAIも、ある意味では被害者のような物だが、ただ普通に生きてみたかった者達にとっては、傍迷惑な話でしかない。
 
レギオンとの戦いで一人、また一人と、86の仲間達が散っていくのを看取って行くことになる主人公の少年シン。死神と呼ばれるまでになった彼にも大切な物(者)があったが、それを奪ったのは云うまでもなくレギオン。やつらは排除した人間たちの脳を自らに組み込んで戦いに活かすと云うタチの悪いやり口で、最悪の形でシンと大切な物を対面させる。
 
ここが86の肝であり、こちらの心を掻き乱す。無人機が暴走し人類滅亡待った無しと云うSF設定や、前線と後衛の温度差を描いている点も魅力的だが、AIによって思念を増幅された者達の残滓とも云える綺麗なだけではない感情の波と、それに相対する主人公の狂気が兎に角たまらないのだ。ただアクションシーンを流し、それらしいセリフを垂れ流すだけでなく、詩的に絵で語るような演出面がまた、すこぶるそれを助長する。タイトル、サブタイトル共にシンプルな本作だけに、中身で勝負しているのが端々から伝わってくるのだ。要所要所で印象的な演出をしてくれた”安藤良”さん。彼には石井俊匡監督共々、これから先も注目して行きたい。
 
 
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ほんとによかったよぉ......
 
 
これほど2クールやってくれてありがとうと思った作品は久しぶりだった。前半のあの日々があったからこそ、最後のあの風景を愛せたのだから。
 
先を見たい作品が、また一つ増えた。
 
願わくば、遥か遠くの見知らぬ国の兵士達にも、先の世界が存在していて欲しいと思った。
 
自分の大切と誰かの大切。それは違って当たり前なのに、どうして尊重し合えないのか?
 
人類が本当の意味において進化するには、あと何万年あっても足りない気がしてならない.....
 
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