無差別八方美人?

全然無差別じゃないおじさん、はてなブログに引越し中です。

時間の死んだ街で”あい”を叫ぶ女優『安藤裕子 2016 ACOUSTIC LIVE 旭川 島田音楽堂 9/24』感想

 僕の住む北海道の旭川と云う場所は、正直真ん中辺りに在ること以外特徴の無い中途半端で地味な街だ。人口が札幌に次いで多いから、北海道第二の都市だなんて言われることもあるけれど、3位の函館との差は7万人ほどで札幌に比べれば1/5しか無いし、盆地のおかげで空気の流れが悪く、蒸し暑くて空がすっきりしないうえ、寒暖の差が激しく夏の最高気温と冬場の最低気温とでは50℃も差があるから生活し易い場所とは到底言えない。
 旭川を舞台にした作品「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」の主人公になんて僕は時間の死んだ街でうまれた。 良くも悪くもマイペースで強情で、変化を嫌うこの街では、澱んだ時の流れすら平穏だとか、安寧と呼ばれる。変えられない、変われないのでは無く、そもそも変えたいと思わないのだ。』と、言われる始末。これで旭山動物園が無かったらどうなっていたことだろう.....
 そんな残念な街だから、まさか安藤裕子が来てくれるとは露程も思っていなかった。それでなくとも久しぶりの北海道上陸であったし、”お金”が目的ならもっと効率の良い場所が在るわけで、ライブスケジュールの発表があった時”旭川”の名前を見つけた時は本当に嬉しかった......
 しかも島田音楽堂というチョイスがまた彼女らしい。前回訪れたのはbonobosのライブの時で、お世辞にも客の入りは良く無かったが、逆に少人数だからこその贅沢さがあって素晴らしかったので、今回も普通に期待を膨らませ足を運んだわけだけど、本当に島田音楽堂という場所の雰囲気は格別だった(怪しいミサでもやっているみたいな場所だと裕子ねぇやんも楽しんでいた)。防音処理のために音を吸収してしまうライブハウスとは違い、音の反響がすこぶる気持ち良い。聴いているこちらがこれほど気持ち良いのだから、歌っている本人はもっと気持ち良いに違い無い。実際、彼女も伸び伸びと歌っていたように思う。感情が乗った伸びやかな声を聴いていたら、身体の芯から溢れるように涙が止まらなかった。
 初っ端から”はっぴぃえんど”のカバー曲や「森のくまさん」で客を怖がらせたかと思えば、魔女っ子みたいな光るステッキを持ち出して観客の気持ちを解し、お客の中からラップ部分を担当してくれる有志を募って「霜降り紅白歌合戦」を盛り上げて見せれば、曲作りが難しい状態にあったことを告白したうえで、やっと作れるようになった新曲を披露してくれるという、フルアルバムに絡めたツアーでは絶対味わえない構成で本当の本当にお腹いっぱいに安藤裕子を詰め込める2時間半だった。
 1曲歌い上げるまでに、これほど感情の揺れ動きを表現出来る歌手は滅多に居ないと思う。ころころと表情を変え、最高潮へと辿り着いて行く彼女の存在感は半端ではない。歌手と言う括りで定義するには勿体無いほど、髪の先から指先まで身体全体で歌を演じているように感じるのだ。やはり歌手である前に役者なのだと痛感する。歌を休業して舞台を演るのも良いのでは無いだろうか?
 僕はいつも、ライブはアーティストとの真剣勝負の場だと思っている。特にamazarashiや安藤裕子のように抜き身で立ち向かって来る人とは命懸けで、それこそ腹が減る。生きている実感とは、ただ優しいだけでも温かいだけでも得られない。自らを切り刻むくらいの代償があってこそ、人は人であることを思い出せるのではなかろうか?
 この先のことなんて分からない
 悔いなんて後にならなきゃ生まれない
 笑いたければ笑えばいい
 泣ける時には泣けばいい
 ただただ今ある感情に嘘を吐かない人生にしよう
 そんな気持ちでいっぱいになる夜だった。また何処かで彼女に逢いたい.....
セットリスト

01 抱きしめたい(はっぴいえんどのカバー)

02 森のくまさん

03 お祭りフェンスと唱おう

04 のうぜんかつら(リプライズ)

05 ほととぎす(レキシ Feat. 聖徳ふとこのソロアレンジ)

06 霜降り紅白歌合戦

07 雨とパンツ(新曲)

08 少女小話(新曲)

09 隣同士(新曲)

10 溢れているよ

11 忘れものの森

12 たとえば君に嘘をついた

13 グッド・バイ

14 Last Eye

15 Touch me when the world ends

アンコール

16 アメリカンリバー

17 問うてる