八世界シリーズを収録した短編第二弾。"八世界"シリーズとは、地球外から飛来した侵略者により地球から追い出され、八つの星(月・水星・金星・火星・タイタン・オベロン・トリトン・冥王星)を人類が生活拠点とするようになったという未来の話で、所変わればなんとやらと、多様化した人類の生き方が有り有りと書かれていて実に面白かった。
特に性的マイノリティが小躍りしてしまいそうな"変身"(自分のクローンを培養し、脳を載せ替え自在に性別を変える事)が可能になっている点が非常に印象に残る作品でした。作中では、今の時代でも風当たりの強い性の問題を、ごく普通の事として扱っているが、本作が書かれた時代の倫理観を思うと、周囲に目くじらを立てられたり、大勢敵を作ったであろうことが容易に想像出来ます。クローンへの脳移植という発想だけでも際どいのに、性別だけでなく年齢だって自在に変える事が出来るのだから、実年齢が100を超えていても、7歳の身体を手に入れられるわけで、流石に自由過ぎやしませんか?と不安感を募らせるのも無理は無い。
だが実際のところ、そうした型破りな試みが世間一般に認められる時が来たとして、僕らの心の内に一体どんな変化が訪れるのだろうか?
"変身"が一般化する少し前の時代の子育てママが、子供の世話に追われ旦那主導の安穏とした日々に嫌気がさし、自分が男に変身することによって旦那に女の大変さを理解させようとする「選択の自由」というエピソードがあったが、男になった経験を経て彼女は成長し、旦那の方は旦那の方でガラガラと崩れ去った固定概念を踏み台に性や夫婦の在り方を心底見つめ直していて興味深かった。いくら男が家庭に入り子供の世話をし、女がバリバリ外で働き男女の役割だけを交換したところで、性別を完全に変えてみるほどの効果が得られるはずも無いのだし、身体を自由に変えられる時代がもしも到来したら、男と女が長年解決出来ずに来た問題が一挙に片付いてしまう、なんて事もあり得るのかもしれない。
※巻末の大野さんによる年表&用語集には助けられた
「選択の自由」以外にも彗星を利用した観光の驚くべき手法を描いた話や、情緒たっぷりで楽園とその終焉を味合わせてくれる物や、共生生物と交わることで過酷な環境を快適に過ごす者達の復讐劇など、特殊な設定を活かしたエピソード一つ一つが個性的で、まるでつい最近書かれた作品かと錯覚するほどの新鮮な内容に舌を巻いてしまった。
先を見通す人の新しい考え、価値観というのは、普通の人々に受け入れられるまで長い歳月を必要とする。果たして人類はジョン・ヴァーリイが思い描いた世界同様さらなる変身を遂げることが出来るのか?
それとも、変われない事を噛み締めながら朽ちて行くのが僕らの未来なのだろうか?
スマホだVRだ、と、騒いでいるのも今だけなのかもしれません。
僕も脳をクローンに載せ替えて長生きしたいなぁ......
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