矛盾だらけの世界に掛けられた魔法で、もがき苦しむ人々の陰鬱な想いと、その苦しみの中でも僅かに差し込んで来る希望の暖かさを代弁しているかのような男”秋田ひろむ”は、今を生きる多くの人の拠り所になっている。
美しい日本語の情緒を随所に感じる歌詞と、時に激しく時にしっとりと聴かせる緩急の付いた作曲とのバランスが絶妙であること、そして一番大きいのは秋田ひろむの楽曲に対する姿勢だと思う。仕方なく誰かにやらされているわけでもなく、作り上げた曲と真剣に向かい合い、自分の存在を殺してでも作品世界のイメージを届けようとする彼の姿はすこぶるプロフェッショナルだ。
つい先日出たばかりの、去年行われた「千分の一夜物語 スターライト」の模様を収録したDVD(アンプラグドアレンジ盤の初回限定に付属された特典)を観ていてつくづくそう思った。
絵になる朗読姿
ストリングス中心のバンド編成でamazarashiを代表する楽曲の数々と共に、秋田ひろむによる詩の朗読が行われたこのライブでは、いつもの曲達が一味違う洗練された厚みの曲に生まれ変わっていて、原曲が刺々しいものまで”まろやか”で上品な味わいになっているものだから、散々聴き込んだはずの楽曲達に違う一面があることに気づいて新鮮。
アコースティックな旋律に自分の声を乗せるのは誤魔化しが効かないので、アーティストの自力が良く分かるものですが、バックの表現力に負けずじっくり歌い上げる秋田ひろむは流石でした。
いつ暴発するか分からないような切実さに面食らって、amazarashiの楽曲と距離を置いているような音楽好きさんなどは、今回の『あまざらし 千分の一夜物語 スターライト』でもう一度触れて見ると良さを発見出来たりするかもしれない。
それにしても、メインのアンプラグド音源CDより、特典DVDがやばい逸品でした。
DVDの他に、360°見回せるパノラマ映像を楽しめる眼鏡とコンテンツ解放キーが入っていました。
空から地上まで見渡せるイラスト&朗読であったり、スモークの動きやお客様まで見ることが出来る映像もあって面白い
何をもって”大人”の定義とするかは難しいけれど、また少し秋田ひろむは大人になったと僕は思う。良くも悪くも自分と世界を許せるようになって来たような気がするから。
次は3D映像を使ったライブを行うとも聞くし、これからも表現者として、そして人としてのステップを秋田ひろむとamazarashiは駆け上がってゆくに違いない。