PM2.5だの、光化学スモッグだのと週末日本のあちこちで騒がしかった中、しれっとガンの告白をする芸能人のように、雑誌の休刊を月間IKKIが発表した。
「月刊IKKI」休刊のお知らせ
※公式HPより
たったの12行、266文字に収められた14年に渡る雑誌の終焉。編集部員や連載陣はどのように見ているのだろうか?
そもそもIKKIとはなんだったのか?
IKKI創刊当時、ネット配信がどーのとか、不景気がどーのと言うのは噂だけでしかなく、まだまだ出版業界は元気で雑誌は出せばそれなりに売れる時代でした。コミックに関しても、法律上の問題もあって新品が売れるから貸本が成長する余地も無く、新品が売れることで中古も元気。 しかし、こうすれば売れると言うマンネリ化した漫画業界に何処か行き詰まり感があり、それを払拭する「何か」が欲しい時代だった。
そんな中、正道・定石に囚われず、売り上げがナンボのもんじゃい!と、他の雑誌では扱いに困りそうなアクの強い漫画家と作品ばかりを集めてくれていたのがIKKIで、不思議なエロスで読者を魅了するべテラン”山本直樹”や、絵から聴こえないはずの音を感じる独特な漫画家”さそうあきら”、それに加えあの頃から既にマニアの中じゃ猛烈に支持されていた”林田球”など、とてもじゃないが爽やかとは言い難い濃い連載陣が本当に濃厚で面白かった。
同じくコアな漫画を取り扱うアフタヌーンが、ある程度オタクホイホイなキャッチーさも上手に配合しているというのに、IKKIはそういった客層をあまりとりこまず(とりこむ気が無かったでしょ?)、その時代、その時代の日陰で半端じゃなく尖っている作家を引っ張って来る天才でした。
他所じゃ絶対通らないネームを通してくれるIKKIに、きっと漫画家達も伸び伸びと漫画を描いていたに違い無い。嘆くばかりじゃ芸が無いが、こういう場が成立しなくなってしまった時代はやっぱり寂しい....
休刊から復刊した例は数える程度しか無いし、事実上サヨナラなわけですが、新雑誌を出す予定はあるそうだ。
その新雑誌がIKKIのように才能ある漫画家に自由な裁量を委ねるだけの度量を持つ本になるのかどうなのかによって、生き残っていく漫画家の質も変わってゆくのでしょうね。
今じゃAmazonで自作の電子書籍を売る事が出来る時代ですし、大きな出版社が大量に漫画家を抱える体制という時代も変わりつつあるのかもしれませんが、自作にダメ出しをしてくれる存在が、出版社のプロの編集部員からネットの向こう側にいる素人だけになるのは少々危険な気もしなくもない。
本当に才能がある作家なんて一握りですから、きっと平凡な作品が今より増えるんだろうなぁ。それでなくとも漫画なんて手間隙掛かるわけですから、簡単に描けて、簡単に儲ける事が出来る内容の漫画が更に世の中に蔓延してゆくことでしょう。
何度となくアーティスティックな漫画家を抱えて沈んで逝った雑誌を見て来たけれど、もしかしたらIKKIが最後の砦だったと思う日が来るかもしれない。
とにかく、今連載中の漫画家達が、納得いく形で連載を終える、もしくはスムーズに雑誌移籍を果たすことが1番大事ですね....